大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)2050号 判決
一 請求原因一1の事実(原告が本件意匠権を有すること)同2の事実(本件意匠に類似意匠(1)ないし(7)が附帯していること)、被告がその期間の点を除きイ号物品を業として製造・販売してきたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告は、イ号意匠が本件意匠に類似する旨主張するので検討する。
イ号物品が本件意匠に係る物品と機能及び用途を同じくする「磁気治療器」であることについては、前記争いのない事実と弁論の全趣旨により認められるので、以下その意匠の類似について考える。
1 本件意匠の構成
(一) 本件意匠の概括的態様(請求原因三1(一))は当事者間に争いがない。
(二) いずれも成立に争いのない甲第一号証、第一七号証、乙第九号証の一ないし四、証人鰺坂昭男の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、本件意匠の具体的態様は次のとおりであると認められる。
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起三個を、
(ハ) それぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の同心円上に、相互に等間隔として正三角形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率が約四・二の真円形である。((1)(イ)、(2)の点は当事者間に争いがない)被告は、本件意匠の小突起の形状を「直径が約〇・二、高さが約〇・一二の上面が半球体の短筒形状」と表現すべきであると主張し、前掲乙第九号証の四によると、本件意匠の願書に添付された図面中本件意匠の正、背面図、左・右側面図、断面図には、小突起を側面から見た形状として、偏平円柱形上面から立ち上がり、その上面が半球状をなしたものが描かれているのであるが、前掲乙第九号証の三・四によると、その立ち上がり部分はわずかであり、斜視図には半球状のものが描かれているうえに、前掲乙第九号証の一によると、右願書の「意匠に係る物品の説明」中に小突起について「ほぼ半球状の3個の小突起」と記載されているから、小突起の表現としては、前認定のとおり「直径約〇・二の比よりなる略半球状」とするのが相当である。
2 意匠の類否を判断するに当たつては、両意匠を全体的に観察し、意匠における要部を対比してなされなければならない。そして、登録意匠の要部は、当該意匠の出願前にその分野における公知公用(周知周用を含む)の意匠(以下「公知意匠」という)が存する場合にはこれを参酌して当該意匠における創作性の存否・程度を把握し、更に類似意匠が附帯している場合には、これを参考にしたうえで定められねばならない。
そこで、以下、これら本件意匠の要部決定のための参考となる事実についてみることとする。
3 公知意匠
いずれも成立に争いのない乙第一ないし第六号証、第一五号証、被告代表者本人の供述によりいずれも被告主張のものであることが認められる検乙第二号証の一・二、第三、第四号証の各一ないし四、第五号証の一・二、被告代表者本人の供述を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 実開昭四九―八八五九五(昭和四九年八月一日公開、以下「公知意匠(1)」という)
右実用新案は、接着テープの中央部に磁気板を接着してなることを特徴とする磁気治療器に関するもので、同考案の公開実用新案公報(乙第四号証)の図面(別紙公知意匠図(一))には、円形粘着シートの中央に突起のない偏平円柱形の磁気体を装着している態様のものが示されている。
(二) 実開昭四九―一一九一九〇(昭和四九年一〇月一一日公開、以下「公知意匠(2)」という)
右実用新案は、直径数ミリメートルのやや厚みのある磁気盤の一面中央に窪み部を形成して同窪み部に、直径二ミリメートル前後の球状金属粒子を嵌入させ、その二分の一以上を磁気盤より突出させたことを特徴とする治療器に関するもので、同考案の実用新案公報(乙第二号証)の図面(別紙公知意匠図(二))には、偏平円柱形磁気体の中心凹部に、これとは別体の球状金属粒子を嵌入し、そのほぼ三分の二を突設したものを、磁気体に比較すると大きな長方形絆創膏中央部に装着している態様のものが示されている。
(三) 実開昭五〇―一二〇八六(昭和五〇年二月七日公開、以下「公知意匠(3)」という)
右実用新案は、貼着性を有する支持部材に金属或いは錠剤状小粒に磁気をもたせた刺戟体を粘着した外用貼布剤において、刺戟体の一部皮膚接触面に断面が鋭角状をなした刺戟点をもうけたことを特徴とする外用貼布剤に関するもので、同考案の公開実用新案公報(乙第三号証)の図面(別紙公知意匠図(三))には、外用貼布剤において偏平円柱形磁気体の中央に鋭角状の刺戟点を設けた態様のものが示されている。
(四)一九七四年一一月七日発行の西ドイツ公開特許明細書第二三二一四八五号公報(以下「公知意匠(4)」という)
右発明は、治療用絆創膏に関するもので、絆創膏の粘着層箔の粘着面に鋼鉄又はその他の硬い材料よりなる球を付着させ、この球が粘着層箔により患者の疾患部に対し設置保持される内容のものであり、右公報(乙第一五号証)の図面(別紙公知意匠図(四))には、角型絆創膏の上面に三個の球体をそれぞれ正三角形の各頂点位置に付設した構成(第五図)、五個の球体をそれぞれ十文字の交叉点及び各端部の位置に付設した構成(第三図)のものが示されている。
(五) 商品名「マグレイン」と称する貼付式治療器(以下「公知意匠(5)」という)
右商品(検乙第五号証の二)は、昭和四〇年頃、株式会社阪村研究所によつて製造・販売され、ほぼ正方形の絆創膏の上面中央に金属製小球一個を付設した態様のものである。
(六) 商品名「コリントリン」と称する貼付式治療器(以下「公知意匠(6)」という)
右商品(検乙第三号証の四)は、昭和四六年頃、日本商事株式会社によつて製造・販売され、角型絆創膏の上面に五個の金属製小球を正方形の頂点及び二本の対角線の交点の位置に付設した態様のものである。
(七) 商品名「マグレバンG」と称する貼付式治療器(以下「公知意匠(7)」という)
右商品(検乙第四号証の三)は、昭和四六年頃、高田産業株式会社によつて製造・販売され、その態様は前記公知意匠(5)と同様である。
(八) 商品名「ロイヤルトツプ」と称する貼付式治療器(以下「公知意匠(8)」という)
右商品(検乙第二号証の二)は、昭和五〇年頃、和光電研株式会社によつて発売され、ほぼ正方形の絆創膏上面の中央部に金属製の、押しピン状小突起一個を有する薄い小円盤一個を付設した態様のものである。
4 各類似意匠の構成
類似意匠(1)ないし(7)の各登録意匠であることにつき争いのない別紙類似意匠図(一)ないし(七)の表示、いずれも成立に争いのない甲第七、第八号証、第一〇ないし第一四号証を総合すると、各類似意匠の各構成は次のとおり分説するのが相当である。
A 概括的態様
(一) 類似意匠(1)ないし(5)の概括的態様は、請求原因三1(一)(1)(2)(3)に同じである。
(二) 類似意匠(6)の概括的態様は、
(1) 正六角形の角をとつて丸みをつけた偏平六角柱形の磁気体であつて、
(2) その上面に小突起を形成したものを、
(3) 円形粘着シートの中央に装着した構成よりなる磁気治療器
(三) 類似意匠(7)の概括的態様は、
(1) 正方形の角をとつて丸みをつけた偏平四角柱形の磁気体であつて、
(2) その上面に小突起を形成したものを、
(3) 円形粘着シートの中央に装着した構成よりなる磁気治療器
B 具体的態様
(一) 類似意匠(1)
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・三の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・三の比よりなる略半球状の小突起一個を、
(ハ) その半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の中心に突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率は約四の真円形である。
(二) 類似意匠(2)
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・三の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起二個を、
(ハ) それぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の同心円上に、相互に等間隔として、右各円の直径上に並列して突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率は約四の真円形である。
(三) 類似意匠(3)
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起四個を有し、
(ハ) その一個をその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の中心に位置し、他の三個をそれぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔として正三角形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率は約四・二の真円形である。
(四) 類似意匠(4)
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起六個を有し、
(ハ) その一個をその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の中心に位置して、他の五個をそれぞれその半球の中心が磁気体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔として正五角形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率は約四・二の真円形である。
(五) 類似意匠(5)
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起六個を、
(ハ) それぞれその半球の中心が磁気体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔として正六角形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、磁気体の直径に対する比率は約四・一の真円形である。
(六) 類似意匠(6)
(1) 磁気体は、
(イ) 正六角形の角をとり丸みをつけた偏平六角柱が内接する仮想円の直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる同六角柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起三個を、
(ハ) それぞれその半球の中心が前記正六角形の最長対角線上に、しかも、前記仮想円の同心円上に相互に等間隔として正三角形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、仮想円の直径に対する比率は約四・二の真円形である。
(七)類似意匠(7)
(1) 磁気体は、
(イ) 正方形の角をとり丸みをつけた偏平四角柱が内接する仮想円の直径一に対して高さ約〇・三の比よりなる同四角柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起四個を、
(ハ) それぞれその半球の中心が前記正方形の対角線上に、しかも、前記仮想円の同心円上に相互に等間隔として正方形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2) 粘着シートは、仮想円の直径に対する比率は約三・五の真円形である。
5 まず、本件意匠と公知意匠とを対比して本件意匠の創作性の有無・程度をみる。
(一) 公知意匠(1)は、本件意匠とは、円形粘着シートの中央に偏平円柱形の磁気体を装着している磁気治療器である点において共通するけれども、磁気体の上面に小突起を突設していない点において異なる。
(二) 公知意匠(2)は、偏平円柱磁気体を有する磁気治療器である点において本件意匠と共通し、磁気体中央に窪み部を形成して同部位に、これとは別体の球状金属粒子を嵌入している点に構造上の相違はみられるものの、外観から受ける美感上は本件意匠の小突起と類似のものということができる。しかし、右公知意匠は、絆創膏が大きな長方形である点において本件意匠と異なる。
(三) 公知意匠(3)は、偏平円柱形磁気体を有する磁気治療器である点において本件意匠と共通点を有するけれども、同磁気体中央に断面が鋭角状(押しピン状断面構造)をなした刺戟点が突設してある点、絆創膏の形状が不明である点において相違する。
(四) 公知意匠(4)ないし(8)
公知意匠(4)は、角型絆創膏の中央に金属球一個、又は同絆創膏に複数個の金属球を一定間隔を置いて付設したものであり、公知意匠(5)、(7)は、角型絆創膏の中央に一個の金属製小球を付設し、公知意匠(6)は、角型絆創膏上面に五個の金属製小球を一定間隔で付設したものであり、公知意匠(8)は、角型絆創膏上面中央部に押しピン状小突起一個を有する薄い小円盤一個を付設してあるものであり、いずれも偏平円柱形磁気体を有しない点において、本件意匠とは美観上の特徴を著しく異にする。
右の本件意匠と公知意匠との対比に基づき本件意匠の創作性を考えると、円形粘着シートの中央に偏平円柱形の磁気体を装着してある形態は、この種の磁気治療器において本件意匠の出願前公知であるから、本件意匠は、偏平円柱形磁気体上面に略半球状小突起を突設した点に創作性がある、ということができる。
被告は、本件意匠の概括的態様(請求原因三1(一))は本件意匠出願前公知であつたと主張するけれども、右で説示のとおり、右出願前に磁気治療器又はその類似物に関して、円形粘着シートの中央部に偏平円柱形磁気体を装着し、右磁気体上面に略半球状小突起を突設した態様のものが存在していたことを認めるに足りる証拠はなく、被告の右主張は採用の限りでない。
6 次に、本件意匠と各類似意匠とを対比して、両意匠の共通点をみることとする。
(一) 概括的態様
概括的態様につき本件意匠と各類似意匠を対比すると、類似意匠(1)ないし(5)は本件意匠と同一であるが、類似意匠(6)、(7)は、それぞれ磁気体の形状が正六角形の角をとつた偏平六角柱、正方形の角をとつた偏平四角柱である点において本件意匠と異なる。
(二) 具体的態様
次に、各類似意匠と本件意匠との具体的態様を対比する。
(1) 磁気体の形状につき、本件意匠では、「直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形」であるのに対し、各類似意匠では、「直径一に対し高さ約〇・三(類似意匠(1)、(2)、(7))又は約〇・四(類似意匠(3)ないし(6))の比よりなる偏平円柱形(但し、類似意匠(6)は、正六角形の角をとり丸みをつけた偏平六角柱、類似意匠(7)は、正方形の角をとり丸みをつけた偏平四角柱)」である点に異同がみられる。
(2) 略半球状の形状・数につき、類似意匠(1)が「前記の比率で直径約〇・三の比よりなる略半球状の小突起一個」であるほかは、本件意匠、類似意匠(2)ないし(7)とも「前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起複数個」である点において共通する。
(3) 小突起の配置につき、類似意匠(1)が「その半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の中心に突設してある」ほかは、本件意匠、類似意匠(2)ないし(7)とも「それぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円(但し類似意匠(6)は正六角形の角をとつて丸みをつけた偏平六角柱が内接する仮想円、類似意匠(7)は正方形の角をとつて丸みをつけた偏平四角柱が内接する仮想円)の同心円上に相互に等間隔として配列・突設してある」点において共通する。
(4) 粘着シートの寸法・形状につき、本件意匠では「磁気体の直径に対する比率が約四・二の真円形」であるのに対し、類似意匠では「磁気体(類似意匠(6)、(7)は前記仮想円)の直径に対する比率が約三・五(類似意匠(7))、約四(類似意匠(1)、(2))、約四・一(類似意匠(5))、約四・二(類似意匠(3)、(4)、(6))の真円形」である点に異同がみられる。
(三) そうすると、各類似意匠が本件意匠を本意匠として、それに類似するものとして登録が認められたのは、かかる共通点があるからに他ならないので、本件意匠の要部を定めるに当たつては、右の共通点が斟酌されなければならない。
7 右5、6で認定・説示したところによれば、本件意匠の要部は、偏平円柱形磁気体の上面に、複数個の略半球状の小突起を、それぞれその半球体の中心が磁気体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔で配列・突設してある点に存する、というのが相当である。
被告は、前記公知意匠を参酌した場合に本件意匠の類似範囲は小突起の配列が三角形を想起させるものないしはそれに近似したものに限定されるし、各類似意匠を参考にするにしても、それらと同一又は酷似するものに限定されると主張するけれども、前記公知意匠の項で判示のとおり、本件意匠の出願前に円形粘着シートの中央に偏平円柱形又はそれに類似の磁気体を装着し、磁気体上面に一個又は複数個の略半球状の小突起を配置・突出させた態様の磁気治療器、その類似物の存在が認められない以上、本件意匠の類似範囲或いは要部を被告主張の如く限定して解釈すべきいわれはない。
8 イ号意匠の構成
(一) イ号意匠の概括的態様が請求原因三2(一)(1)´(2)´(3)´記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
(二) イ号物品であることにつき争いのない検乙第一号証の二によれば、イ号物品の具体的態様は次のとおりであると認められる。
(1)´ 磁気体は、
(イ)´ 直径一に対して高さ約〇・三の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ)´ 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起五個を、
(ハ)´ その一個をその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の中心に、他の四個をそれぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔として正方形を構成する角度位置に配列・突設してあつて、
(2)´ 略円形粘着シートは、前記の比率で長径約四、短径約三・六の比よりなる円に近い楕円形とした態様である
((2)´の点は当事者間に争いがない)。
9 そこで、本件意匠とイ号意匠とを対比する。
(一) イ号意匠の概括的態様(1)´(2)´(3)´の構成は、それぞれ本件意匠の(1)(2)(3)の構成と同一である(この点は当事者間に争いがない)。
(二) イ号意匠の具体的態様(1)´(イ)´と本件意匠の(1)(イ)とを対比すると、前者における偏平円柱形の直径に対する高さ比が約〇・三であるのに対し、後者における右高さ比が約〇・四である点に相違がみられるほかは同一である。
(三) イ号意匠の具体的態様(1)´(ロ)´と本件意匠の(1)(ロ)とを対比すると、前者の小突起の数が五個であるのに対し、後者のそれが三個である点に相違がみられるほかは同一である。
(四) イ号意匠における(1)´(ハ)´と本件意匠における(1)(ハ)とを対比すると、前者の小突起のうち一個を磁気体本体の外郭線である円の中心に置いている点、他の四個を正方形を構成する角度位置に配列・突設している点に相違はあるものの、複数個の小突起がそれぞれその半球の中心が磁気体本体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔に配列・突設されている点において後者の小突起の配列方法と同一である。
(五) イ号意匠の具体的態様(2)´と本件意匠の(2)とを対比すると、前者が磁気体の直径一に対して長径約四、短径約三・六の比よりなる円に近い楕円形であるのに対し、後者は約四・二の真円形である点に相違がみられる。
(六) 右共通・相違点をもとに、イ号意匠が本件意匠に類似するか否かをみるに、前記のとおり本件意匠の要部は、偏平円柱形の磁気体の上面に、複数個の略半球状の小突起をそれぞれその半球体の中心が磁気体の外郭線である円の同心円上に相互に等間隔で配列・突設してある点に存するところ、イ号意匠が右要部を備えていることは、右(四)で対比検討したところにより明らかであるから、イ号意匠は本件意匠に類似するというべきである。
(七) そして、右(二)における偏平円柱形の直径に対する高さ比の相違は、イ号物品及び本件意匠の意匠に係る物品がともに小さなもので(前掲検乙第一号証の二、前掲甲第一七号証・乙第九号証の一の「意匠に係る物品の説明」欄参照)、製品の製造誤差といえる程の微小なものであり(現に前掲甲第六号証によれば、原告従業員の計測したところではイ号物品における右高さ比は〇・四である)、また、右(五)で判示したイ号意匠における粘着シートの形状も楕円形とはいえ長径と短径の差が小さく略円形といえる程度の差異にすぎず、いずれもイ号意匠が本件意匠に類似するとの判断を左右するものではない。
被告は、イ号意匠が本件意匠と類似しない根拠として、イ号意匠における五個の小突起の配列が十字形或いは賽の目「五」を連想させるのに対し、本件意匠における三個の小突起の配列は三角形を想起させると主張するけれども、本件意匠における要部すなわち、磁気体上面に、小突起複数個を同心円状に配列した態様は、これを全体的にみると、磁気体の外郭線、更には粘着シートの円形周縁と相俟つて同心円状をなし、看者の眼を惹きつける美観を形成しているといえるのであり、これに比べて被告主張の右相違点は部分的なもので、両意匠における、かかる共通点に由来する類似性を否定するほど顕著なものとはいい得ないから、前記判断に消長を来たすものではない。
次に被告は、各類似意匠に、それらの一部と類似し、イ号意匠に酷似する先願意匠(意願昭五四―三二七〇八、意願昭五四―三五四一九)が存在するから、本件意匠の類似範囲を定めるに当たり各類似意匠を参考にするにしても、これと同一か酷似するものに止めるべきで、イ号意匠は本件意匠の類似範囲に入らない旨主張する。
しかしながら、いずれも成立に争いのない乙第一九、第二〇号証の各一ないし三によると、被告主張の右各先願意匠は、それぞれ本件意匠の出願後である昭和五四年八月三日、同月二五日に出願されているが、かかる先願意匠は、本意匠である本件意匠に類似するものとして登録が拒絶される場合もあり得るうえに、元来本意匠の類似範囲は、類似意匠の先願意匠の存否にかかわらず一定であつて、本意匠の類似範囲を定めるに当たり、右先願意匠の存否いかんによつて、その類似範囲に実質的な変動を来たすような解釈を採ることは許されないものというべく、被告の右主張も失当というほかない。
被告の主張に副う成立に争いのない乙第一四号証(鑑定書)第一六号証(鑑定書・追加)の見解は、前示認定・説示に照らし採用できない。
三 以上説示のとおりであつて、被告は、業としてイ号物品を製造・販売することにより、原告の本件意匠権を侵害したということができる。
被告は、イ号物品を昭和五六年二月二六日以降製造・販売していないというが、仮にそうであるとしても、イ号物品が本件意匠の類似範囲に属することを被告において争つていることは弁論の全趣旨により明らかであり、そうだとすると、被告において前同様の侵害行為をするおそれがあるものと認められる。
被告による右侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行為は、過失によつてなされたものと推定される(意匠法四〇条)。したがつて、被告は原告に対し、右不法行為によつて原告の蒙つた後記損害を賠償する義務を負うこととなる。
四 そこで、損害額について検討する。
1 被告は、イ号物品の販売数量、右販売による利益額について、被告が昭和五五年五月一九日から昭和五六年二月二五日までの間にイ号物品五一四万粒を製造し、そのうち四三一万粒を商品、八三万粒をサンプルとして販売し、これにより八八六万〇四〇〇円の利益を得た限度において認めている。
2 原告は、被告の昭和五五年四月頃から昭和五六年二月末日までのイ号物品販売数量が六〇〇万粒であり、右同数量の原告製品を販売できなかつたことによる喪失利益が一粒当たり三円八〇銭である旨主張するけれども、被告によるイ号物品の製造・販売の期間・数量が被告の前記自認するところを超えることを認めるに足りる証拠はない。また、証人鰺坂昭男の証言中には、本件意匠の実施品一粒当たりの利益が二四円である、とする部分があるけれども、右数値を客観的に裏付けるに足りる証拠がないので、右証言部分をそのまま採用することは困難である。
原告の右主張は理由がない。
3 次に、原告は、被告が六〇〇万粒のイ号物品を販売し、一粒当たり三円八〇銭、合計二二八〇万円の利益を得たので、原告が右と同額の損害を蒙つたと推定される旨主張する。
成立に争いのない乙第一一号証、証人鰺坂昭男の証言及び弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第九号証の一ないし八及び同証人の証言を総合すると、原告の従業員鰺坂昭男は、被告のイ号物品販売による利益を一九四八万八八〇〇円と算定していること、しかしながら、右算定の基礎である売上単価・売上数量は被告の売上帳(乙第一一号証)に拠つているものの、イ号物品の素材原価は原告における本件意匠の実施品製造に要した素材原価に拠り、販売経費は中小企業庁編さんに係る「中小企業の原価指標」(昭和五五年度、甲第九号証の二)に登載されている統計上の数値に拠つていることが認められる。
しかし、右の数値がイ号物品の素材原価、販売経費として妥当であることを裏付けるに足りる資料はなく、鰺坂昭男による算出額が被告の現実の利益額であるといい得ない以上、この点に関する原告の主張も亦失当というほかない。
4 また、原告は、本件意匠の実施料率が二〇パーセントであることを前提に同率による実施料相当の損害額を主張しているけれども、右実施料率が被告の認める二ないし三パーセントを超えることを認めるに足りる的確な証拠はない。
5 右1ないし4のとおりであるから、被告のイ号物品販売による原告の損害額は、被告が自認する利益額八八六万〇四〇〇円の限度において、意匠法三九条一項により右同額であるとの推定を受けるに止まる。
ところで、被告は、被告の利益額に原告製品の市場占有率九二パーセント及び原告の売上のうち本件意匠の実施品の占める割合二五パーセントを乗じた二〇三万七八九二円をもつて原告の損害であると主張する。しかし、意匠法三九条一項は、登録意匠の侵害行為によつて侵害者の受けた利益額をそのまま意匠権者の損害額と推定する旨の規定であるから、被告は、原告の現実に受けた損害額が右利益額より少ないこと、原告が本件意匠を実施していないことなどを立証して右推定を覆滅しない限り、右利益額と同額の損害賠償義務を免れず、本件において右推定を覆えすに足りる証拠はない。のみならず、原告が本件意匠の実施によつて磁気治療器業界随一の売上を得ていることは弁論の全趣旨に徴し明らかである。被告の前記主張は採用できない。
五 以上のとおりとすると、原告の本訴請求中、被告に対し、イ号物品の製造・譲渡・譲渡のための展示の差止め、その所有にかかるイ号物品の廃棄、並びに、損害金八八六万〇四〇〇円及びこれに対する不法行為の後で被告への本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年四月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がないというべきである。
よつて、本訴請求を右の限度で認容する。
〔編註その一〕 本件における主文は左のとおりである。
一 被告は、別紙イ号目録記載の磁気治療器を製造し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
二 被告は、その所有にかかる第一項記載の磁気治療器を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金八八六万〇四〇〇円及びこれに対する昭和五六年四月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
〔編註その二〕 本件登録意匠に関する事項は左のとおりである。
一1 原告は、左記意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)を有する。
記
出願 昭和五〇年九月一一日(意願昭五〇―三七二二一)
登録 昭和五四年一月二五日(第五〇〇三四六号)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙登録意匠図記載のとおり
2 本件意匠には左記(一)ないし(七)の類似意匠が附帯している(以下順次「類似意匠(1)ないし(7)」という。)。
記
(一) 類似意匠(1)
出願 昭和五三年一一月一七日(意願昭五三―四八九三一)
登録 昭和五六年七月二三日(第五〇〇三四六号の類似一)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(一)記載のとおり
(二) 類似意匠(2)
出願 昭和五三年一二月一一日(意願昭五三―五二四三三)
登録 昭和五六年七月二三日(第五〇〇三四六号の類似二)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(二)記載のとおり
(三) 類似意匠(3)
出願 昭和五五年九月一九日(意願昭五五―三八九九五)
登録 昭和五六年一二月二五日(第五〇〇三四六号の類似三)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(三)記載のとおり
(四) 類似意匠(4)
出願 昭和五五年九月一九日(意願昭五五―三八九九六)
登録 昭和五六年一二月二五日(第五〇〇三四六号の類似四)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(四)記載のとおり
(五) 類似意匠(5)
出願 昭和五五年九月一九日(意願昭五五―三八九九七)
登録 昭和五六年一二月二五日(第五〇〇三四六号の類似五)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(五)記載のとおり
(六) 類似意匠(6)
出願 昭和五五年九月二二日(意願昭五五―三九四四七)
登録 昭和五六年一二月二五日(第五〇〇三四六号の類似六)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(六)記載のとおり
(七) 類似意匠(7)
出願 昭和五五年九月二二日(意願昭五五―三九四四八)
登録 昭和五六年一二月二五日(第五〇〇三四六号の類似七)
意匠に係る物品 磁気治療器
登録意匠 別紙類似意匠図(七)記載のとおり
二 被告は、別紙イ号目録記載の磁気治療器(以下「イ号物品」という)を、業として昭和五五年四月頃以降製造・販売している。
三 イ号物品の意匠(以下「イ号意匠」という)は、以下のとおり、本件意匠の類似範囲に属する。
1 本件意匠の構成
(一) 概括的態様
(1) 偏平円柱形の磁気体であつて、
(2) その上面に小突起を形成したものを、
(3) 円形粘着シートの中央に装着した構成よりなる磁気治療器
(二) 具体的態様
(1) 磁気体は、
(イ) 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ) 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起三個を、
(ハ) 相互に等間隔として正三角形を構成する位置に突設した態様であり、
(2) 円形粘着シートは、前記の比率で約四・二の比よりなる円形とした態様である。
2 イ号意匠の構成
(一)概括的態様
(1)´ 偏平円柱形の磁気体であつて、
(2)´ その上面に小突起を形成したものを、
(3)´ 略円形粘着シートの中央に装着した構成よりなる磁気治療器
(二) 具体的態様
(1)´ 磁気体は、
(イ)´ 直径一に対して高さ約〇・四の比よりなる偏平円柱形の上面に、
(ロ)´ 前記の比率で直径約〇・二の比よりなる略半球状の小突起五個を、
(ハ)´ 中心に一個、それを囲んで四個を等間隔で十文字を構成する位置に突設した態様であり、
(2)´ 略円形粘着シートは、前記の比率で長径約四、短径約三・六の比よりなる円に近い楕円形とした態様である。
〔編註その三〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
イ号目録
(一) 商品名 「マグネコリントリンG」
(二) 概括的態様
(1) 偏平円柱形の磁気体であつて、
(2) その上面に小突起を形成したものを、
(3) 円形粘着シートの中央に装着した構成
よりなる磁気治療器(別紙「イ号図」のとおり)
イ号図
<省略>
登録意匠図
<省略>